輓曳見聞録〜エンディング〜

 

 そのイベントとは、相撲取りが柱をいろんな形にしているイベントであった。

     

 「鉄砲」と呼ばれる、柱に突っ張りをかます「動かないものを動かそうとするトレーニング」は、西洋では「アイソメトリクストレーニング」といわれ、安全性が高く、大仰な器具がなくても筋力を上げることができるトレーニングとして、高い評価を受けている。

 しかし、我々が目撃したのは、そんな生易しいものではなかった。

 相撲取りが、拳で柱を叩く。叩く。叩く。ガツン、ガツンと鈍い音がJR構内に響き渡り、柱は原型を留めないほどに削れていった。それは、1tの馬が500kgのソリをひく迫力にも負けず劣らず、我々は「これならばんえいを見にいかなくてもいいね」と異口同音に言った。

 やがて、柱は、徐々に形が整っていった。

「まさか…狙って削っているのか?」

 4時間もすると、ただの円柱だった柱は、細部まで作りこまれた、1体の菩薩像へと姿を変えていた。その、優しさのなかに、一筋の哀しみが垣間見える表情に、観衆は魅了され、涙する者までいた。

 菩薩像を彫り上げた相撲取りが、観衆に向かって一礼した。喝采が場を包み、あたりは割れんばかりの歓声が聞こえるのみとなった。

「完成して歓声か」

 私の発言も、かき消されてしまった。

    

      

 

うっかりホームまで戻ってしまう。

 


2005 ufy Takahashi